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最後の七夕
今年も七夕がやって来た。
笹の葉に似た竹は、今年も窓辺で風に揺れている。
ただ、いつもと違うのは、毎年毎年日本から輸入してまで綺麗に飾っていたのに今年は特に何もせず、願いを書いた短冊だけが唯一の飾りとしてぶら下がっている。なんだか寂しい七夕飾りだ。
「今年はこれ以外は飾らねえの?」
って俺が訊いても「これでいいんですよ」と微笑まれるだけ。
逆に、これじゃあ寂しいですかと聞き返される始末だ。
いや、毎年嬉しそうに飾りつけをしていたのは、あんただろうが。
なんだか、妙な違和感を胸に秘めたまま、七夕の当日がやって来た。
いつものように、ご馳走を作って嬉しそうにしている高遠。でも少しだけいつもと違うと言うか、少しだけ変な気がしていた。
そうそれはほんの少しだけ。
それまでは普通だったんだ。他愛ない話をして、そして俺が何気無く短冊のことを口にしたときだった。
「まったく、何年も七夕やってるけど、俺いまだに高遠の短冊見たことねえよ」
「そうですねえ、はじめは本当に良い子でしたよね」
ギクッ、それは最初に俺が短冊を見られたら、願いがかなわねえって高遠に嘘吹き込んだからだ。高遠は今もそれを信じているのかどうか、今まで一度も短冊を見せてくれたことはない。俺からも見ようとはしなかったけどさ。
だって、何て書いてあるのか、怖くて見れないって言うかさ。それくらい高遠の願いは真剣に思えたんだ。
だけど。
「見たいですか?」
「えっ?」
突然、高遠がそう言ってクスリと笑った。
「じゃあ食事が終わって、ぼくの言うことを利いてくれたら見せてあげてもいいです」
「まじで!」
高遠の言うことを利くのが条件っていうのがちょっと怖い気もするけど、好奇心の方が勝ってしまった。
「俺、何すればいいの?」
恐る恐る訊いてみる。
「なに、簡単なことですよ。一緒にお風呂に入りましょう」
「えっ、お風呂って、あーんなことや、こーんなことしない?」
俺が不審気な眼差しを送ると、高遠はクスクス笑って、しませんよ何てうそぶく。
ほんとかよ、と、うろんな目で見ていると、
「期待しているのなら、しますけど」
「や、何も期待してない!普通に風呂入ろう!普通に!」
風呂場では折り重なるように湯船に座って、高遠が俺の髪を洗ってくれたり、身体を隅々まで洗ってくれたり、それはもう至れり尽くせりで、覚悟していた悪戯は不思議とされなかった。俺が不審な顔をしていたんだろう、高遠は苦笑ぎみに本当になにもしませんよと泡まみれになった顔で笑った。
さて、風呂も入ったし、高遠に髪を乾かされながら、いつ見せてくれるのかと聞いたら、この髪が乾いたらねと微笑む。
やっぱり少し変だ。なにがって訊かれたら分からないけどなにか違う。高遠の指の繊細さも俺の髪に触れる温もりも優しさもいつもと変わらない。でも、なにか見落としている気がして仕方がない。
「はじめは本当に鋭いですねえ」
俺がなにも言わないのに、高遠は持っていたドライヤーを止めた。
「伸びましたね、髪」
それは、高遠と暮らした証しでもある。くくりやすい程度にはちょこちょこ切ってたけれど、それでも日本をたった時と比べたら、ずいぶんと長くなった。
「高遠と暮らした証だよ」
「そうですね」
少しの間、俺の髪を弄ぶように触っていた高遠は、不意に俺の手を引いて居間へと歩き出した。
居間の扉を開けると、開けっぱなしだった窓からの風で、俺の髪が揺れた。それをどこか懐かしそうに切なそうに高遠は見ると、今度はまっすぐに窓辺へと向かった。笹の葉によく似た竹の葉と一緒に短冊が揺れている。
二枚揺れているうちのひとつに手を伸ばすと、高遠はそっと宝物でも受け取るかのように外した。
「これがぼくの今の願いです」
そこには、
[はじめがぼくよりもずっと長生きしますように]
とだけ書いてあった。
「嘘だ!」
「はじめ」
「嘘だ嘘だ❗言ったじゃないか!逝くときは一緒に連れてってくれるって、言ったじゃないか!」
「はじめ、落ち着いて」
気がつくと頬に涙が零れていた。
「何で今さらそんなこと、無理だよ。もうとっくにそんなのは無理だ」
「はじめ、すみません。僕にはもう君を連れて行くことはできない」
「それって、離れるってことなんじゃないのか!俺はいや」
それ以上の言葉を発することはできなかった。高遠の唇に塞がれていた。もがいて抗議しようと足掻いたが無駄だった。涙だけが言えない言葉を代弁するように、次から次へとこぼれ落ちていった。
気が付くとベッドの中にいた。二人とも生まれたままの姿で何度もキスを繰り返して。俺は泣いていた。
「嫌だよう。高遠、俺は嫌だ」
高遠の繊細な指が髪を撫でる。宥めるように、いとおしむように。
「はじめ、このまま一緒にいれば、ぼくはきっと君を殺してしまう。それだけは絶対に嫌なんですよ」
「俺はそれでも構わないよ。もう。離れることなんて考えられない」
すると高遠が泣きそうな顔をして笑った。
「魔法の言葉があるんですよ」
「なにそれ」
「愛してる」
高遠の言葉に、大きく目を見開いて、そして新たな涙が溢れる。それは今までほしかった言葉、一度も言ってはくれなかった言葉。
「今さらそんな、狡いよ」
「いいえ、これは魔法の言葉。君を自由にしてくれる」
「どういうこと?」
「どういうことでしょうねえ」
高遠の重みがのし掛かってくる。愛してる。はじめ、愛してる。と何度も繰り返しながら。
何か言わなくちゃ、このままじゃきっと後悔する。そんな予感がするのに、俺の頭はなぜかどんどんぼんやりして、結局なにも言えないまま、意識を失ってしまった。
高遠ははじめが意識を失なったのを確認してから、はじめの胸に顔を埋めて一人泣いた。
「ずっとかけていたんですよ。愛してると言ったら、君はすべて忘れる。ぼくとのこと、ここでのこと全部忘れてしまう暗示を。そうしないといけなかった。ぼくは君だけは殺したくないんだ。愛してるから、はじめ」
月明かりが照らす、青い部屋。二人で過ごした思い出ばかりが残る部屋。そんな部屋の中に高遠の嗚咽だけが静かに響いていた。
俺は気付いたら、なぜか成田空港のど真ん中に立っていた。
「なんじゃこりゃー!」
周りにいた人たちが、驚いて俺を見る。うさんくさいものを見るような眼差しが俺に突き刺さる。
うう、そんな目で見ないで、俺まじでビビってるんだもん。
何で?俺、何したの?何でこんなところにいるの?
今の格好と言えば、着古したジーンズにTシャツ、バックパックひとつ背負って妙にお気軽な格好だ。誰だよ。俺をこんなところに置き去りにしたやつは。
思い出そうとするけれど、思い出せない。ついでに、自分が今まで何をしていたのかも思い出せない。
「何だよこれ、記憶喪失ってやつ?」
自分が何をしていたのかわからないってのも、不気味なもんで、まさか警察沙汰に巻き込まれていやしないかと、今までの自分から考えてみたりする。でも、どこか少しだけそうではないような気持ちがあって。
「取り敢えず、家に電話してみるか」
それからが大変だった。
「あんたヨーロッパに行ってたんじゃないの?絵ハガキ時々送ってくれてたじゃない」
とは母の弁。
だがしかし、その間一切のことはわからずじまいで、記憶がないと言う俺の言葉に、上を下への大騒ぎになった。何でも俺は、海外で生活していたらしいんだけど、まったくその間の記憶がないのだ。揚げ句の果てには病院にもつれていかれたが、結局、一時的な記憶喪失だろうと言うことで入院は免れた。
健康状態もよく特に問題がなかったのもあるのだろう。親は変なクスリでもやっていたんじゃないかと疑っていたキライがあるが、大丈夫との医者の話で、どっと安心したようだ。その内治るだろうなんて、気楽に言ってくれる。
久しぶりに帰ってきたらしい家は以前と変わらず、けど何か物足りない気がした。
一段落して、自分の部屋で寛いでいると、さらさらと笹の葉が何処かで鳴っているのが聴こえてきた。
突然、胸が痛くなった。
何かとても大切なものを、なくしてしまった気がして、でもそれが、何かわからなくて。
「何なんだよ、一体」
分からないものが判らないまま、俺は無くしてはいけない何かを無くしたんだと、確信に近い思いが溢れた。
笹の葉擦れが、いつまでも耳に残って、消えてはくれない。
さようなら
俺はわからない何かに向かってそう呟いた。
一粒だけ零れた涙は、しょっぱい味がした。
2021.7.6.up
竹流
これが最後の高金ですね。
はじめちゃんが37歳になっては何もかけません。
サイトもアカウントの仕様で更新できなくなったので、こちらで失礼します。
もう潮時だったのかな?
飼っていた猫も亡くなって2年半が経ちました。
サイトを更新していた頃は、いつも膝にのっていた子です。
あの子がいなくなって、何も書けなくなりました。
もう誰も見ていないかも知れませんが、今までありがとうございました。
あのweb拍手も、覗きに行けなくなってしまったので、もしもコメントくださってたらご免なさいです。
長い間来てくださったかたには感謝しかありません。
ありがとうございました。
竹流
笹の葉に似た竹は、今年も窓辺で風に揺れている。
ただ、いつもと違うのは、毎年毎年日本から輸入してまで綺麗に飾っていたのに今年は特に何もせず、願いを書いた短冊だけが唯一の飾りとしてぶら下がっている。なんだか寂しい七夕飾りだ。
「今年はこれ以外は飾らねえの?」
って俺が訊いても「これでいいんですよ」と微笑まれるだけ。
逆に、これじゃあ寂しいですかと聞き返される始末だ。
いや、毎年嬉しそうに飾りつけをしていたのは、あんただろうが。
なんだか、妙な違和感を胸に秘めたまま、七夕の当日がやって来た。
いつものように、ご馳走を作って嬉しそうにしている高遠。でも少しだけいつもと違うと言うか、少しだけ変な気がしていた。
そうそれはほんの少しだけ。
それまでは普通だったんだ。他愛ない話をして、そして俺が何気無く短冊のことを口にしたときだった。
「まったく、何年も七夕やってるけど、俺いまだに高遠の短冊見たことねえよ」
「そうですねえ、はじめは本当に良い子でしたよね」
ギクッ、それは最初に俺が短冊を見られたら、願いがかなわねえって高遠に嘘吹き込んだからだ。高遠は今もそれを信じているのかどうか、今まで一度も短冊を見せてくれたことはない。俺からも見ようとはしなかったけどさ。
だって、何て書いてあるのか、怖くて見れないって言うかさ。それくらい高遠の願いは真剣に思えたんだ。
だけど。
「見たいですか?」
「えっ?」
突然、高遠がそう言ってクスリと笑った。
「じゃあ食事が終わって、ぼくの言うことを利いてくれたら見せてあげてもいいです」
「まじで!」
高遠の言うことを利くのが条件っていうのがちょっと怖い気もするけど、好奇心の方が勝ってしまった。
「俺、何すればいいの?」
恐る恐る訊いてみる。
「なに、簡単なことですよ。一緒にお風呂に入りましょう」
「えっ、お風呂って、あーんなことや、こーんなことしない?」
俺が不審気な眼差しを送ると、高遠はクスクス笑って、しませんよ何てうそぶく。
ほんとかよ、と、うろんな目で見ていると、
「期待しているのなら、しますけど」
「や、何も期待してない!普通に風呂入ろう!普通に!」
風呂場では折り重なるように湯船に座って、高遠が俺の髪を洗ってくれたり、身体を隅々まで洗ってくれたり、それはもう至れり尽くせりで、覚悟していた悪戯は不思議とされなかった。俺が不審な顔をしていたんだろう、高遠は苦笑ぎみに本当になにもしませんよと泡まみれになった顔で笑った。
さて、風呂も入ったし、高遠に髪を乾かされながら、いつ見せてくれるのかと聞いたら、この髪が乾いたらねと微笑む。
やっぱり少し変だ。なにがって訊かれたら分からないけどなにか違う。高遠の指の繊細さも俺の髪に触れる温もりも優しさもいつもと変わらない。でも、なにか見落としている気がして仕方がない。
「はじめは本当に鋭いですねえ」
俺がなにも言わないのに、高遠は持っていたドライヤーを止めた。
「伸びましたね、髪」
それは、高遠と暮らした証しでもある。くくりやすい程度にはちょこちょこ切ってたけれど、それでも日本をたった時と比べたら、ずいぶんと長くなった。
「高遠と暮らした証だよ」
「そうですね」
少しの間、俺の髪を弄ぶように触っていた高遠は、不意に俺の手を引いて居間へと歩き出した。
居間の扉を開けると、開けっぱなしだった窓からの風で、俺の髪が揺れた。それをどこか懐かしそうに切なそうに高遠は見ると、今度はまっすぐに窓辺へと向かった。笹の葉によく似た竹の葉と一緒に短冊が揺れている。
二枚揺れているうちのひとつに手を伸ばすと、高遠はそっと宝物でも受け取るかのように外した。
「これがぼくの今の願いです」
そこには、
[はじめがぼくよりもずっと長生きしますように]
とだけ書いてあった。
「嘘だ!」
「はじめ」
「嘘だ嘘だ❗言ったじゃないか!逝くときは一緒に連れてってくれるって、言ったじゃないか!」
「はじめ、落ち着いて」
気がつくと頬に涙が零れていた。
「何で今さらそんなこと、無理だよ。もうとっくにそんなのは無理だ」
「はじめ、すみません。僕にはもう君を連れて行くことはできない」
「それって、離れるってことなんじゃないのか!俺はいや」
それ以上の言葉を発することはできなかった。高遠の唇に塞がれていた。もがいて抗議しようと足掻いたが無駄だった。涙だけが言えない言葉を代弁するように、次から次へとこぼれ落ちていった。
気が付くとベッドの中にいた。二人とも生まれたままの姿で何度もキスを繰り返して。俺は泣いていた。
「嫌だよう。高遠、俺は嫌だ」
高遠の繊細な指が髪を撫でる。宥めるように、いとおしむように。
「はじめ、このまま一緒にいれば、ぼくはきっと君を殺してしまう。それだけは絶対に嫌なんですよ」
「俺はそれでも構わないよ。もう。離れることなんて考えられない」
すると高遠が泣きそうな顔をして笑った。
「魔法の言葉があるんですよ」
「なにそれ」
「愛してる」
高遠の言葉に、大きく目を見開いて、そして新たな涙が溢れる。それは今までほしかった言葉、一度も言ってはくれなかった言葉。
「今さらそんな、狡いよ」
「いいえ、これは魔法の言葉。君を自由にしてくれる」
「どういうこと?」
「どういうことでしょうねえ」
高遠の重みがのし掛かってくる。愛してる。はじめ、愛してる。と何度も繰り返しながら。
何か言わなくちゃ、このままじゃきっと後悔する。そんな予感がするのに、俺の頭はなぜかどんどんぼんやりして、結局なにも言えないまま、意識を失ってしまった。
高遠ははじめが意識を失なったのを確認してから、はじめの胸に顔を埋めて一人泣いた。
「ずっとかけていたんですよ。愛してると言ったら、君はすべて忘れる。ぼくとのこと、ここでのこと全部忘れてしまう暗示を。そうしないといけなかった。ぼくは君だけは殺したくないんだ。愛してるから、はじめ」
月明かりが照らす、青い部屋。二人で過ごした思い出ばかりが残る部屋。そんな部屋の中に高遠の嗚咽だけが静かに響いていた。
俺は気付いたら、なぜか成田空港のど真ん中に立っていた。
「なんじゃこりゃー!」
周りにいた人たちが、驚いて俺を見る。うさんくさいものを見るような眼差しが俺に突き刺さる。
うう、そんな目で見ないで、俺まじでビビってるんだもん。
何で?俺、何したの?何でこんなところにいるの?
今の格好と言えば、着古したジーンズにTシャツ、バックパックひとつ背負って妙にお気軽な格好だ。誰だよ。俺をこんなところに置き去りにしたやつは。
思い出そうとするけれど、思い出せない。ついでに、自分が今まで何をしていたのかも思い出せない。
「何だよこれ、記憶喪失ってやつ?」
自分が何をしていたのかわからないってのも、不気味なもんで、まさか警察沙汰に巻き込まれていやしないかと、今までの自分から考えてみたりする。でも、どこか少しだけそうではないような気持ちがあって。
「取り敢えず、家に電話してみるか」
それからが大変だった。
「あんたヨーロッパに行ってたんじゃないの?絵ハガキ時々送ってくれてたじゃない」
とは母の弁。
だがしかし、その間一切のことはわからずじまいで、記憶がないと言う俺の言葉に、上を下への大騒ぎになった。何でも俺は、海外で生活していたらしいんだけど、まったくその間の記憶がないのだ。揚げ句の果てには病院にもつれていかれたが、結局、一時的な記憶喪失だろうと言うことで入院は免れた。
健康状態もよく特に問題がなかったのもあるのだろう。親は変なクスリでもやっていたんじゃないかと疑っていたキライがあるが、大丈夫との医者の話で、どっと安心したようだ。その内治るだろうなんて、気楽に言ってくれる。
久しぶりに帰ってきたらしい家は以前と変わらず、けど何か物足りない気がした。
一段落して、自分の部屋で寛いでいると、さらさらと笹の葉が何処かで鳴っているのが聴こえてきた。
突然、胸が痛くなった。
何かとても大切なものを、なくしてしまった気がして、でもそれが、何かわからなくて。
「何なんだよ、一体」
分からないものが判らないまま、俺は無くしてはいけない何かを無くしたんだと、確信に近い思いが溢れた。
笹の葉擦れが、いつまでも耳に残って、消えてはくれない。
さようなら
俺はわからない何かに向かってそう呟いた。
一粒だけ零れた涙は、しょっぱい味がした。
2021.7.6.up
竹流
これが最後の高金ですね。
はじめちゃんが37歳になっては何もかけません。
サイトもアカウントの仕様で更新できなくなったので、こちらで失礼します。
もう潮時だったのかな?
飼っていた猫も亡くなって2年半が経ちました。
サイトを更新していた頃は、いつも膝にのっていた子です。
あの子がいなくなって、何も書けなくなりました。
もう誰も見ていないかも知れませんが、今までありがとうございました。
あのweb拍手も、覗きに行けなくなってしまったので、もしもコメントくださってたらご免なさいです。
長い間来てくださったかたには感謝しかありません。
ありがとうございました。
竹流
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死よりも残酷に
オメルタ-CODE:TYCOON-
劉編BADEND「荊の王冠」から
死よりも残酷に
腕の中の男は、ゆっくりと瞼を閉じようとしていた。
撃たれた傷口からは、毛足の長い絨毯を大きく黒く染めるほど、常に血があふれ出している。
もともと表情豊かとは言えなかった男は、それでもこの時、笑っていた。
白い肌はさらに青みを増している。なのにその口元から一筋流れる血は酷く鮮やかで、美しく男を彩っていた。
殺し屋らしい最後、といえば言えるのかもしれない。
男は私のものだった。
その身体も、行動も、存在のすべてが。
男は私の護衛で、いつも私の傍にいて行動を共にし、いざという時にはその身体を盾としてでも私を守る。それがこの男の仕事だった。
それでも、この男が私をいつ殺そうかと内心ずっと葛藤していたことぐらいは、知っていた。
男は以前、私を殺すために部下が男から人質をとって、私のところへ送り込んできた殺し屋だった。だが、裏ですべてを把握していた私は、逆にその人質を私の元に奪い、無理やり男に言うことをきかせたのだ。言うことさえきいていれば、いつか人質は解放してやると脅して。
男にすれば、不本意この上ない事だったろう。人質を取っていた相手が突然変わり、私に反逆を企てた男を殺せと、ターゲットだった男から逆に命ぜられたのだから。
けれど男は、その反逆者の男を殺すチャンスを、わかっていてわざと逃した。その反逆者が、私を殺さなければならないと思っているその背景を知ってしまっていたからだ。その理由を男はよく理解していた。
殺し屋の癖に、簡単には言うことを聞かない男。いつ私の首を狙うか判らない、危険な男。
わかっていてあえて、私は自分の傍に置くことに決めた。簡単には手懐けられない、野生の獣の目を持つ男。どこかしら、自分に似た部分を持つ男だと思った。いつ私の首を狙いにくるのかと、面白がってもいた。だが、私とて簡単には殺されてなどやらない。
男が私に殺気を向けるたび、いつも手ひどく可愛がってやった。
そうして気がつけば、5年もの歳月が流れて、男は優秀な護衛として私を守り続けた。私もいつの間にか男を手放すことなど、考えられなくなっていた。
「デスサイズ」。男に狙われて、生き延びたものは一人としていないという逸話から付けられた男の裏の通り名だ。
そう、この男は死神なのだから。皆にそう呼ばれ、恐れられた男なのだから、いつか最後に誰かが私の命を奪うとするのならば、その時にはこの男の持つ死の大鎌が一番ふさわしいと、ずっと私は思っていた。
気に入っていたのだ。この男を。
恐らくは、この男が思っているよりも、自分が考えているよりもずっと深く、私はこの男を気に入っていた。
なのにどういうことだろう、男は私よりも先に、逝ってしまうという。
死ぬことなど、許可した覚えは無い。
這ってでも生きろ、という私の命令も聞かずに、勝手に、一人で。
情けない声で、自分の負けだと男は言った。
私を殺したかったと、でも、それ以上に、私を生かし続けたいと思ってしまったのだと。
私と共に海を渡って、もっと広い世界や、私の故郷を見てみたかった…と、掠れる声で最後に言った。
「ああ、連れて行ってやるさ…」
私が答えると。
もう痛みすら感じないのか、酷く穏やかに、少しだけ寂しそうに笑った。
やがてゆっくりと男の瞼が閉じて、その全身から力が抜けて、私の腕の中で重みを増した。
それは男の身体が、魂のない抜け殻と成り果てた瞬間だったろう。
死神が、獲物と決めてその鎌で狙っていた者の腕の中で永遠の眠りに就くとは、まるで良くできたジョークのようだ。
「逝ったか」
私は男の身体を横たわらせると、まだぬくもりの残る手を胸の上で組ませた。
それしか、してやれることなど何も残ってはいなかった。
もう、声も聞けない。その肌に、温もりに、触れることも出来ない、永遠に。
今まで、どれだけの人間を殺してきただろう。「虐殺の帝王」と呼ばれるほどに、いくつもの屍を踏み越えて今まで歩き続けてきた。野心だけを胸に。
こんなことには慣れている。慣れているはず…なのに。
何かが、自分の中で音を立てて壊れた気がした。
それは粉々に砕けて、自らが決めて進むはずだった道を、隠してしまった。
気がつくと、進むべき道は見つからず、目の前に瓦礫の山だけができ、私はただ一人、孤独な瓦礫の王と成り果てていた。
あれから、4年。
目が覚めると、辺りはすでに明るい。以前は朝4時には起き、「デスサイズ」の入れたブラックのコーヒーで目を覚ましていた。睡眠時間など2時間もあれば十分だと、走り続けていた…頃もあったが。今となっては、遠い幻だったような気さえする。
「……夢か」
何度見ただろう。
繰り返し繰り返し、もう数え切れないほどに。男が死に逝くその場面を。
酷く気分が悪い。震えの止まらない手で、紙に包まれた経口薬を古びた戸棚から取り出すと、ベッド脇に置いてあった、とても綺麗とは言いがたい水で、震えで薬が零れてしまわない様に気をつけながら、喉の奥へと流し込む。それは何が混ざっているかも判らない、粗悪な安物のドラッグだ。手にしたコップは淵が欠け、いつ洗ったものか、酷く汚れてしまっている。
以前の自分なら、身体に毒だからと、タバコですら滅多に口にしなかったものを。今はこの薬がないと、やってゆけない。
でも、それで十分だった。少しすると、さっきまでの気分の悪さと、手の震えがわずかに収まってくる。空腹感も感じない。
横を見ると、「デスサイズ」が涼しげな顔をして立っている。穏やかな眼差しで、自分を見つめている。カーキ色のコートにマフラーを巻いて、ずっと変わらない姿で私の傍にいる。いてくれる。この薬さえあれば。
以前のように、ふかふかのベッドも、ソファーも絨毯もない。うす汚れた床に粗末なベッド、古びた石を組んで出来た塗装も無い壁、剥がれ掛けたトタンの屋根。満足に風も防げない、ギシギシと煩いだけの木の扉。
満足な水道設備もない、電気だけが通っているようなボロ家が、今の私の家だ。
飲み水は近くの井戸から汲んで瓶に貯めてある。たまに日雇いの仕事で日銭を稼いで、生きる糧を得ている。4年前からは考えられない、絵に描いたように貧しい暮らし。
あれだけ飢えていたのに。世界のすべてを欲しがる勢いで、駆け続けていたのに。今はもう、何も欲しくない。
「お前さえ傍にいてくれればいい…デスサイズ」
長く美しかった黒髪は、心労のためにか、今は見る影もなく白く変わり、粗悪な麻薬のせいで濁った目には世界は酷く霞んで見える。それでも、そんな中でも「デスサイズ」だけは、はっきりと見ることが出来た。普段から無口だったせいか、今はまったく口を利いてくれなくなってしまったが、それでも命令どおり私の傍にいてくれる。
香港の、貧しい私の故郷に戻ってからも、ずっと。
そう言えば、昨日は飲み屋で日本人の客人に会ったな。わざわざ、私に会いに来たという。
もう、昔のことなど、思い出すのも億劫だというのに。
私はやるだけのことはやった。多くの罪を犯し、屍を踏み越え、巨万の富を築いた。
ドラゴンヘッドを名乗り、移民の受け皿を東京湾岸に作り、やがてはカジノを中心とする歓楽街「大龍宮」を作るまでにのし上がったのだ。
まだまだ野望はあった。こんなものではないと、私は自信に満ちていた。
ただ…少し、疲れた。
「今日は冷えるな」
私の言葉に、「デスサイズ」はそっと私の傍に寄り添ってくれる。
扉の隙間から流れ込む、海からの風が冷たい。まるで冬の足音が聞こえてくるかのようだ。
寄り添う「デスサイズ」の身体に、温もりはない。けれど私は壊れ物を扱うように、そっとその身体を抱きしめる。
「…そう言えば…大事に扱ってやったことなど…無かったな…」
何度も何度も、この腕に抱いたのに。
失くしてしまうまで、気づかなかった。どれだけ、どれほど、大切に思っていたのか。
すべてが壊れてしまうほどに。
何もかもが、どうでもよくなってしまうほどに。
諦めにも似た笑みが、私の口元に浮かぶ。
「…デスサイズ。お前は私のものだ。これからもずっと、私の命が尽きるまで、私だけの…」
物言わぬ男に手を伸ばしながら、私はただ一人呟く。
金よりも、野望よりも、ずっと大切なものがすぐ傍にあったのに。
神は見ておられた。私の行いを。
そして、天罰は下されたのだ。
死よりも残酷に、自らの過ちに見合った罰が。
父親の形見の、ゆがんだロザリオが揺れている。
何も無い空間に向かって、抱きしめるように手を伸ばしている、痩せた長い白髪の男の首元で。
「ここは退屈だ。二人で広い海の向こうへ行こう。デスサイズ…」
すでに口癖になった言葉が、力なく唇からこぼれ落ちる。
何度、夢を見ても、それが真実だったとしても、「デスサイズ」はここにいる。私の傍に。私が死ぬまで。私の身体を蝕み続ける、この薬がある限り。
死神の鎌は、確かに間違いなく私の首に掛かっている。それはいつ、私の首を落とすか判らない。それでも、「デスサイズ」を見失うよりは良かったのだ。もっと、狂えればいい。夢すら見ないほど。
「私が逝く時は、お前が連れて行ってくれるのだろう?」
「デスサイズ」の顔を覗き込むと、少しだけ寂しそうに、笑った。
15/09/26 (土)
いつも、拍手ありがとうございますv 日々の活力です~。って、あんまり最近、サイトとして活動はしていませんが…でも、頑張ろうと思わせていただいています!
すみません。今回「オメルタ CODE:TYCOON」からの短編です。万が一、「オメルタ」の小説の数が増えることがあるようなら、サイトのTEXTの「その他」のところに場所を作るかもです。ぶっちゃけ劉は「沈黙の掟」では死んでいるので、「TYCOON」ではパラレルの続き?という感じなのですが、BADが良かったので、ついつい書いちゃいました///
ゲームを知らない人にはわかりにくいかな~とは思うのですが、ご勘弁ください。
あと、これは主人公がリバなので、リバが駄目な人はこのゲーム、やらないほうがいいです。
微妙にショタが出てくるので、その辺は私も「う~ん?」でしたから。でも、最後までやっちゃったという。
ええ、フルコンプしましたよっ!いえ~い!
注意書き?は、こんなものかな?
今回、高金に関係なくて申し訳ない。
次は頑張ります。
劉編BADEND「荊の王冠」から
死よりも残酷に
腕の中の男は、ゆっくりと瞼を閉じようとしていた。
撃たれた傷口からは、毛足の長い絨毯を大きく黒く染めるほど、常に血があふれ出している。
もともと表情豊かとは言えなかった男は、それでもこの時、笑っていた。
白い肌はさらに青みを増している。なのにその口元から一筋流れる血は酷く鮮やかで、美しく男を彩っていた。
殺し屋らしい最後、といえば言えるのかもしれない。
男は私のものだった。
その身体も、行動も、存在のすべてが。
男は私の護衛で、いつも私の傍にいて行動を共にし、いざという時にはその身体を盾としてでも私を守る。それがこの男の仕事だった。
それでも、この男が私をいつ殺そうかと内心ずっと葛藤していたことぐらいは、知っていた。
男は以前、私を殺すために部下が男から人質をとって、私のところへ送り込んできた殺し屋だった。だが、裏ですべてを把握していた私は、逆にその人質を私の元に奪い、無理やり男に言うことをきかせたのだ。言うことさえきいていれば、いつか人質は解放してやると脅して。
男にすれば、不本意この上ない事だったろう。人質を取っていた相手が突然変わり、私に反逆を企てた男を殺せと、ターゲットだった男から逆に命ぜられたのだから。
けれど男は、その反逆者の男を殺すチャンスを、わかっていてわざと逃した。その反逆者が、私を殺さなければならないと思っているその背景を知ってしまっていたからだ。その理由を男はよく理解していた。
殺し屋の癖に、簡単には言うことを聞かない男。いつ私の首を狙うか判らない、危険な男。
わかっていてあえて、私は自分の傍に置くことに決めた。簡単には手懐けられない、野生の獣の目を持つ男。どこかしら、自分に似た部分を持つ男だと思った。いつ私の首を狙いにくるのかと、面白がってもいた。だが、私とて簡単には殺されてなどやらない。
男が私に殺気を向けるたび、いつも手ひどく可愛がってやった。
そうして気がつけば、5年もの歳月が流れて、男は優秀な護衛として私を守り続けた。私もいつの間にか男を手放すことなど、考えられなくなっていた。
「デスサイズ」。男に狙われて、生き延びたものは一人としていないという逸話から付けられた男の裏の通り名だ。
そう、この男は死神なのだから。皆にそう呼ばれ、恐れられた男なのだから、いつか最後に誰かが私の命を奪うとするのならば、その時にはこの男の持つ死の大鎌が一番ふさわしいと、ずっと私は思っていた。
気に入っていたのだ。この男を。
恐らくは、この男が思っているよりも、自分が考えているよりもずっと深く、私はこの男を気に入っていた。
なのにどういうことだろう、男は私よりも先に、逝ってしまうという。
死ぬことなど、許可した覚えは無い。
這ってでも生きろ、という私の命令も聞かずに、勝手に、一人で。
情けない声で、自分の負けだと男は言った。
私を殺したかったと、でも、それ以上に、私を生かし続けたいと思ってしまったのだと。
私と共に海を渡って、もっと広い世界や、私の故郷を見てみたかった…と、掠れる声で最後に言った。
「ああ、連れて行ってやるさ…」
私が答えると。
もう痛みすら感じないのか、酷く穏やかに、少しだけ寂しそうに笑った。
やがてゆっくりと男の瞼が閉じて、その全身から力が抜けて、私の腕の中で重みを増した。
それは男の身体が、魂のない抜け殻と成り果てた瞬間だったろう。
死神が、獲物と決めてその鎌で狙っていた者の腕の中で永遠の眠りに就くとは、まるで良くできたジョークのようだ。
「逝ったか」
私は男の身体を横たわらせると、まだぬくもりの残る手を胸の上で組ませた。
それしか、してやれることなど何も残ってはいなかった。
もう、声も聞けない。その肌に、温もりに、触れることも出来ない、永遠に。
今まで、どれだけの人間を殺してきただろう。「虐殺の帝王」と呼ばれるほどに、いくつもの屍を踏み越えて今まで歩き続けてきた。野心だけを胸に。
こんなことには慣れている。慣れているはず…なのに。
何かが、自分の中で音を立てて壊れた気がした。
それは粉々に砕けて、自らが決めて進むはずだった道を、隠してしまった。
気がつくと、進むべき道は見つからず、目の前に瓦礫の山だけができ、私はただ一人、孤独な瓦礫の王と成り果てていた。
あれから、4年。
目が覚めると、辺りはすでに明るい。以前は朝4時には起き、「デスサイズ」の入れたブラックのコーヒーで目を覚ましていた。睡眠時間など2時間もあれば十分だと、走り続けていた…頃もあったが。今となっては、遠い幻だったような気さえする。
「……夢か」
何度見ただろう。
繰り返し繰り返し、もう数え切れないほどに。男が死に逝くその場面を。
酷く気分が悪い。震えの止まらない手で、紙に包まれた経口薬を古びた戸棚から取り出すと、ベッド脇に置いてあった、とても綺麗とは言いがたい水で、震えで薬が零れてしまわない様に気をつけながら、喉の奥へと流し込む。それは何が混ざっているかも判らない、粗悪な安物のドラッグだ。手にしたコップは淵が欠け、いつ洗ったものか、酷く汚れてしまっている。
以前の自分なら、身体に毒だからと、タバコですら滅多に口にしなかったものを。今はこの薬がないと、やってゆけない。
でも、それで十分だった。少しすると、さっきまでの気分の悪さと、手の震えがわずかに収まってくる。空腹感も感じない。
横を見ると、「デスサイズ」が涼しげな顔をして立っている。穏やかな眼差しで、自分を見つめている。カーキ色のコートにマフラーを巻いて、ずっと変わらない姿で私の傍にいる。いてくれる。この薬さえあれば。
以前のように、ふかふかのベッドも、ソファーも絨毯もない。うす汚れた床に粗末なベッド、古びた石を組んで出来た塗装も無い壁、剥がれ掛けたトタンの屋根。満足に風も防げない、ギシギシと煩いだけの木の扉。
満足な水道設備もない、電気だけが通っているようなボロ家が、今の私の家だ。
飲み水は近くの井戸から汲んで瓶に貯めてある。たまに日雇いの仕事で日銭を稼いで、生きる糧を得ている。4年前からは考えられない、絵に描いたように貧しい暮らし。
あれだけ飢えていたのに。世界のすべてを欲しがる勢いで、駆け続けていたのに。今はもう、何も欲しくない。
「お前さえ傍にいてくれればいい…デスサイズ」
長く美しかった黒髪は、心労のためにか、今は見る影もなく白く変わり、粗悪な麻薬のせいで濁った目には世界は酷く霞んで見える。それでも、そんな中でも「デスサイズ」だけは、はっきりと見ることが出来た。普段から無口だったせいか、今はまったく口を利いてくれなくなってしまったが、それでも命令どおり私の傍にいてくれる。
香港の、貧しい私の故郷に戻ってからも、ずっと。
そう言えば、昨日は飲み屋で日本人の客人に会ったな。わざわざ、私に会いに来たという。
もう、昔のことなど、思い出すのも億劫だというのに。
私はやるだけのことはやった。多くの罪を犯し、屍を踏み越え、巨万の富を築いた。
ドラゴンヘッドを名乗り、移民の受け皿を東京湾岸に作り、やがてはカジノを中心とする歓楽街「大龍宮」を作るまでにのし上がったのだ。
まだまだ野望はあった。こんなものではないと、私は自信に満ちていた。
ただ…少し、疲れた。
「今日は冷えるな」
私の言葉に、「デスサイズ」はそっと私の傍に寄り添ってくれる。
扉の隙間から流れ込む、海からの風が冷たい。まるで冬の足音が聞こえてくるかのようだ。
寄り添う「デスサイズ」の身体に、温もりはない。けれど私は壊れ物を扱うように、そっとその身体を抱きしめる。
「…そう言えば…大事に扱ってやったことなど…無かったな…」
何度も何度も、この腕に抱いたのに。
失くしてしまうまで、気づかなかった。どれだけ、どれほど、大切に思っていたのか。
すべてが壊れてしまうほどに。
何もかもが、どうでもよくなってしまうほどに。
諦めにも似た笑みが、私の口元に浮かぶ。
「…デスサイズ。お前は私のものだ。これからもずっと、私の命が尽きるまで、私だけの…」
物言わぬ男に手を伸ばしながら、私はただ一人呟く。
金よりも、野望よりも、ずっと大切なものがすぐ傍にあったのに。
神は見ておられた。私の行いを。
そして、天罰は下されたのだ。
死よりも残酷に、自らの過ちに見合った罰が。
父親の形見の、ゆがんだロザリオが揺れている。
何も無い空間に向かって、抱きしめるように手を伸ばしている、痩せた長い白髪の男の首元で。
「ここは退屈だ。二人で広い海の向こうへ行こう。デスサイズ…」
すでに口癖になった言葉が、力なく唇からこぼれ落ちる。
何度、夢を見ても、それが真実だったとしても、「デスサイズ」はここにいる。私の傍に。私が死ぬまで。私の身体を蝕み続ける、この薬がある限り。
死神の鎌は、確かに間違いなく私の首に掛かっている。それはいつ、私の首を落とすか判らない。それでも、「デスサイズ」を見失うよりは良かったのだ。もっと、狂えればいい。夢すら見ないほど。
「私が逝く時は、お前が連れて行ってくれるのだろう?」
「デスサイズ」の顔を覗き込むと、少しだけ寂しそうに、笑った。
15/09/26 (土)
いつも、拍手ありがとうございますv 日々の活力です~。って、あんまり最近、サイトとして活動はしていませんが…でも、頑張ろうと思わせていただいています!
すみません。今回「オメルタ CODE:TYCOON」からの短編です。万が一、「オメルタ」の小説の数が増えることがあるようなら、サイトのTEXTの「その他」のところに場所を作るかもです。ぶっちゃけ劉は「沈黙の掟」では死んでいるので、「TYCOON」ではパラレルの続き?という感じなのですが、BADが良かったので、ついつい書いちゃいました///
ゲームを知らない人にはわかりにくいかな~とは思うのですが、ご勘弁ください。
あと、これは主人公がリバなので、リバが駄目な人はこのゲーム、やらないほうがいいです。
微妙にショタが出てくるので、その辺は私も「う~ん?」でしたから。でも、最後までやっちゃったという。
ええ、フルコンプしましたよっ!いえ~い!
注意書き?は、こんなものかな?
今回、高金に関係なくて申し訳ない。
次は頑張ります。
これが最後だとわかっていたなら(別Version)
今日は先に仕事に出る高遠を、玄関まで見送りに出ようとしたときだった。
いきなり廊下の真ん中で振り返ったかと思うと、突然、高遠は無言のまま、ぎゅうとおれの身体を抱きしめて、顔中にキスの雨を降らし始めたんだ。
いったい何を思ったのか、何度も何度も繰り返される唇の感触に、おれは戸惑いながらも、昼にするものとは思えないキスを返していた。
口吻けているうちに、自分の身体が熱くなってゆくのがわかる。このままでは、下肢に熱が集まりそうだ。
でも、またいつもの高遠のおふざけだと思ったおれは、
「続きは帰って来てからな」
と、わずかに上ずって掠れた声で、おれは笑った。
今日は、高遠とメルロで新しいマジックについての打ち合わせがあるから、おれよりも高遠は早く出ないといけない日だ。このまま、なし崩し的にベッドへ直行できるわけもない。
「また遅れて、『はじめとイチャついてました』なんて言い訳したら、今度こそ、おれ、クビになっちゃうぞ」
そんな軽口をたたきながら、まだしがみついていたそうな高遠を、おれは紅くなった顔のまま押し返したんだ。
なんだか少しだけ、高遠が名残惜しそうな、寂しそうな顔をする。
そして、
「はじめ、ぼくは…何があっても永遠に君のことだけが好きですよ」
おれがびっくりするようなことを、またもやいきなり昼間から言うだけ言うと、高遠はようやく満足したのか、おれからゆっくりと手を離して背中を向けた。細いけど、がっちりとした肩のラインがおれの目に映る。
そうして「行って来ます」と、いつものように肩越しに振り返ると、軽く片手を肩の高さにまで挙げて、もう片方の手でドアを開く。
それは本当に、まったく、いつものように。
いってらっしゃい、とおれもいつものように手を振った。
なのにどうしてかな、おれはこのまま高遠を行かせちゃいけないような気がして、でも、それがどうしてかわからなくて、一瞬戸惑ったんだ。ドアが閉じ始めて、高遠の背中が見えなくなる。
行ってしまう、見えなくなってしまう。
おれは咄嗟に靴も履かずに部屋から飛び出すと、高遠を追いかけて、その背中に追いすがった。足の下で築何十年も経つ古い木製の廊下が、ぎしりと重い音を立てる。
下の公園が見張らせる窓の前だった。ちょうど階段の手摺に手を伸ばしかけたところで、窓からの明るい光を正面に浴びていた高遠は、ちょっと驚いた顔をして振り向いた。おれから見て逆光になった高遠の表情は、なぜだか少し、泣きそうに見えた。
「後から必ず行くから!」
高遠のスーツの背中にしがみつきながら、なのにそんな当たり前の言葉しか出てこない。
すると高遠は、しがみついていたおれの手を取って、ゆっくりとおれのほうに向きなおりながら、まるでお姫様にでもするみたいに、おれの指に口吻けた。そして穏やかに頬笑んでから、もう一度、今度はおれの額にキスをして愛しげにやわらかく抱擁をして。そうして何も言わずにそのまま階段を下りていった。上から覗き込んでいるおれを時折振り返っては、笑いながら手を振った。
奇妙に不安で、でも、すぐに会えるからと、おれは自分に何度も言い聞かせ続けてた。
でもそれが、生きた高遠と会った、最後になった。
まさかのテロ事件に巻き込まれたんだ。
死者は十数人にものぼり、その中に高遠の名前も含まれていた。
最後だとわかっていたなら、行かないでくれと、おれは言っていただろう。
高遠は、わかっていたのかな? 何かを感じていて、でも、何も言わなかったのかな?
今となっては、もうわからない。
ただ、あの時の高遠の指の感触が、唇の感触が、忘れられない。
きっと、この先もずっと、そうなんだろう…
高遠の眠る墓の前に立つと、旅に出るつもりだと告げた。バックパックひとつだけを下げた身軽な旅に出るつもりだと。
また帰ってきたら、旅の報告をするよと約束をして、真っ赤な薔薇の花束を墓前に置くと、背中を向けた。
-いってらっしゃい
そう言われた気がして、振り返ったけれど、そこには、まだ真新しい墓石があるばかりで。
離れがたく立ち尽くしていると、薔薇の香りと共に優しい風がおれの髪をなでて、通り過ぎていった。
15/08/31(月) 了
いつもご来訪&拍手ありがとうございます。
今回は、サイトにUPしたものの、別Versionです。
う~ん、苦しいなあ。
最初、遊びのつもりでちょこっとだけ絵日記に書いてたんですが、結局かなり書き足して形になるようにしちゃったので…
いや~書いたはいいけど、置く所もないし、こんな短編別Verをサイトに置くほど、ごり押ししたくもないし。結末は、まったく違ったものになりましたが。
悩んだ末、こちらに置くことにしましたv
ブログ、ひと月ほど放置しちゃってましたしね。
絵日記は50枚たまると古い分から消えてゆくので、もしサイトに上げられないなというようなのは、こちらにUPしてゆくかもです。
あ、TOP絵変更は、もうしばらくお待ちください。
なかなか、気に入った絵が描けなくて…
イメージどうりに描けないって言うか。しょぼ~ん。
ではでは。
とりあえず、新作UP
いつもご来訪、そして拍手ありがとうございます。
最近、絵日記ばっかり更新しているから、こちらがすっかりご無沙汰になってしまっております。
この先もたぶん、日記のメインは絵日記で、こちらのblogは新作をUPしたときと、オリジナルを書いた時くらいになるかもです。あと、コメントのお返事とか。
今回のお話は、本当は絵日記にでも載せようか位の軽い感覚で考えていたお話だったんですが、絵日記だともしかして読めない人もいるかもしれないなーと、「雑文」の方へUPすることにいたしました。んで、もう42話目なんですね、「雑文」だけで。よく続いたなー、としみじみ。まあ、どれも超短編なんですが///
まだUPしていないお話もあるし、季節がら来年のUPになるなっていうのもあるし、本当にこれUPして良いのかな?というのも、手元にはあるので、また小出しに出来たらよいなと思います。
絵日記にも、発作のようにSS書くときもありますし、突然連載を始めることもあるので、もし見れない方がいらしたら、またいずれサイトにUPしますので、よろしくです。
う~ん。半分、絵日記の宣伝だな。こりは。
とりあえず、TOP絵を替えたいのだけれど、描く暇がない。。。
絵日記書いてる場合じゃねーわ!とは思うんですけど、楽しいんですよね、絵日記。
どうしたもんかなあ。う~ん。
最近、絵日記ばっかり更新しているから、こちらがすっかりご無沙汰になってしまっております。
この先もたぶん、日記のメインは絵日記で、こちらのblogは新作をUPしたときと、オリジナルを書いた時くらいになるかもです。あと、コメントのお返事とか。
今回のお話は、本当は絵日記にでも載せようか位の軽い感覚で考えていたお話だったんですが、絵日記だともしかして読めない人もいるかもしれないなーと、「雑文」の方へUPすることにいたしました。んで、もう42話目なんですね、「雑文」だけで。よく続いたなー、としみじみ。まあ、どれも超短編なんですが///
まだUPしていないお話もあるし、季節がら来年のUPになるなっていうのもあるし、本当にこれUPして良いのかな?というのも、手元にはあるので、また小出しに出来たらよいなと思います。
絵日記にも、発作のようにSS書くときもありますし、突然連載を始めることもあるので、もし見れない方がいらしたら、またいずれサイトにUPしますので、よろしくです。
う~ん。半分、絵日記の宣伝だな。こりは。
とりあえず、TOP絵を替えたいのだけれど、描く暇がない。。。
絵日記書いてる場合じゃねーわ!とは思うんですけど、楽しいんですよね、絵日記。
どうしたもんかなあ。う~ん。
やっとこ七夕UP
いつもご来訪、拍手&コメントありがとうございますv
裏、見付かればよいですね。いや、自分的にしょぼいとは思うんですけど…
頑張ってください!
今年は七夕までにUP出来てよかった。本当に良かった。
いつもぎりぎりで、見直す暇もないほどなので、ちょっと早めに書き出しました。
もう、ネタないですしね。でも、来年も書ければ書く!…何の意地なんだろう?
パラレルを、最近書き出しています。以前の続きもだけど、新しいのも。
う~ん、パラレルの方が書きやすいかもしれないなあ、なんて考えてたりして。
とりあえず、びみょーに頑張っています。
たまには日記も書きに来ないと、宣伝で埋められちゃいますしね!
読んで面白かった本のことなども、書いても良いかなあ。
書ければ、たまには超短編なんかも、書ければよいのだけど…
にゃんこお膝に乗っけて、頑張りたいと思います。
ではでは~。
裏、見付かればよいですね。いや、自分的にしょぼいとは思うんですけど…
頑張ってください!
今年は七夕までにUP出来てよかった。本当に良かった。
いつもぎりぎりで、見直す暇もないほどなので、ちょっと早めに書き出しました。
もう、ネタないですしね。でも、来年も書ければ書く!…何の意地なんだろう?
パラレルを、最近書き出しています。以前の続きもだけど、新しいのも。
う~ん、パラレルの方が書きやすいかもしれないなあ、なんて考えてたりして。
とりあえず、びみょーに頑張っています。
たまには日記も書きに来ないと、宣伝で埋められちゃいますしね!
読んで面白かった本のことなども、書いても良いかなあ。
書ければ、たまには超短編なんかも、書ければよいのだけど…
にゃんこお膝に乗っけて、頑張りたいと思います。
ではでは~。